養子による相続税額への影響
Q.父親の相続人は、長男及び長女の2人です。この度、父親の財産の将来の承継を考えた結果、長男の子を父親の養子にすることになりました。父親に相続が発生した場合の相続税額への影響について教えてください。父親の財産は下記のとおりです。
・土地 3億円
・建物 2億円
・預金 1億円
・借入金 0円
◆ポイント!
①相続税の基礎控除額が増加します。
養子縁組前:3,000万円×600万円×2人=4,200万円
養子縁組後:3,000万円×600万円×3人=4,800万円
②生命保険金等の非課税限度額が増加します。
養子縁組前:500万円×2人=1,000万円
養子縁組後:500万円×3人=1,500万円
③死亡退職金等の非課税限度額が増加します。
養子縁組前:500万円×2人=1,000万円
養子縁組後:500万円×3人=1,500万円
④相続税の総額を計算する際の相続人の人数は以下の通りです。
養子縁組前:2人(長男2分の1、長女2分の1)
養子縁組後:3人(長男3分の1、長女3分の1、養子3分の1)
A. 相続税の計算を行う際、次の4項目について、法定相続人の数を基に行います。
①相続税の基礎控除額
②生命保険金の非課税限度額
③死亡保険金の非課税限度額
④相続税の総額の計算
これらの計算を行うときの法定相続人の数に含める被相続人の養子の数は、一定数に制限されています。
・被相続人に実子がいる場合⇒1人まで
・被相続人に実子がいない場合⇒2人まで
◆このQのケースで考えてみましょう。被相続人の相続財産の総額は3億円+2億円+1億円=6億円となります。
○養子がいない場合の相続税の総額の計算
相続財産の総額 60,000万円(6億円)
基礎控除額 △ 4,200万円
課税遺産総額 55,800万円(5億5,800万円)
↓
相続人 長男・長女
法定相続割合 各々2分の1
法定相続分に応ずる取得金額 各々27,900万円
相続税の総額の基となる税額 各々9,855万円
相続税の総額 19,710万円
↓
養子がいない場合の相続税の総額(長男と長女で負担する相続税の合計金額)は、1億9,700万円となります。
○養子が1人いる場合の相続税の総額の計算
相続財産の総額 60,000万円(6億円)
基礎控除額 △ 4,800万円
課税遺産総額 55,200万円(5億5,200万円)
↓
相続人 長男・長女・養子
法定相続割合 各々3分の1
法定相続分に応ずる取得金額 各々18,400万円
相続税の総額の基となる税額 各々5,660万円
相続税の総額 16,980万円
↓
養子がいない場合の相続税の総額(長男と長女で負担する相続税の合計金額)は、1億6,980万円となります。
相続税の総額の計算は、課税遺産総額を法定相続人の人数に応じて按分して算出した金額(法定相続分に応ずる取得金額)に超過累進税率を乗じて計算した税額が基礎となります。つまり、法定相続人の人数が多いほど、相続税の実質的な税率が低くなります。1点留意する事項があります。このQのケースでは、孫養子でしたが、孫養子が相続財産を取得した場合には、孫養子が負担する相続税額については、2割加算の対象となります。養子縁組による相続税の総額への影響は大きいことがわかります。ただし、養子の数を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、養子の数を否認される可能性があります(相続税法63条)。