生前贈与の活用と注意点

Q.母親の財産は、預貯金1億円です。法定相続人は長男1人で、母親は遺言を書いていません。長男が財産を承継するにあたり、(A)相続税で負担する場合と、(B)生前に贈与税で負担する場合の税負担の違いについて教えてください。

ポイント!

①相続税の税率表と贈与税の税率表を比べると贈与税の税率のほうが高くなっています。

②贈与税(暦年贈与)の基礎控除は1年で110万円であるため、長期にわたる暦年贈与は、相続税の負担を軽減する効果があります。

③相続開始前3年以内の贈与については、相続税の計算上、加算されます。

④贈与の事実を確認できるよう準備することが重要です。

A.平成27年1月1日以降、相続税の基礎控除額は大幅に減少されることになったので、「生前贈与」に関する相談が非常に増加しています。

相続税の税率と贈与税の税率を比べて、贈与税の税負担は、相続税の税負担が高くなります。

(A)1億円をすべて贈与するとしたら、贈与税はいくらになるか

1億円×55%(税率)-640万円(控除額)=4,860万円

(B)1億円をすべて相続するとしたら、相続税はいくらになるか

1億円-(3,000万円-600万円×1人)=6,400万円

6,400万円×30%(税率)-700万円(控除額)=1,220万円

※基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

これだけ見ると、贈与税の税負担は相続税の税負担より相当程度高くなるため、生前贈与を行うことは税負担を大きくすると思われる方が多いかと思います。ところが、両者を組み合わせてみると、全く違った結果になります。

たとえば、母親の預貯金1億円から毎年310万円10年間生前贈与を長男に行った後で、母親に相続が発生した場合には、どのような税負担になるでしょう?贈与税は毎年20万円の負担を10年間の間負担することになるので、合計200万円の贈与税を負担することとなります。相続が発生した時点で、すでに母親の預貯金は1億円から10年間の生前贈与の合計額の3,100万円減少していることとなりますので、母親の相続財産は預貯金6,900万円に対して課税されることになります(相続開始前3年以内の贈与財産の加算はないことを前提とします)。6,900万円の預貯金をすべて長男が相続することになった場合の相続税負担額は、460万円となります。10年間にわたり、毎年310万円預貯金の贈与を行った後、3年超経過した後に母親に相続が発生した場合における長男の税負担の合計は、贈与税200万円と相続税460万円の合計の660万円となります。

○贈与税

 1年:(310万円-110万円)×10%=20万円 (毎年110万円まで非課税      (税率))

 10年:20万円×10年間=200万円・・・①

○相続税

 1億円-310万円×10年間=6,900万円(すでに贈与した金額)

 (6,900万円-3,600(基礎控除額)万円)×20%(税率)-200万円=460万円・・・②

 税負担の合計額は、①+②=660万円

◆税務トラブルにならないために

上記のとおり、生前贈与を有効に活用することは、次世代の子供や孫の税負担を減少させることとなりますが、次のケースは税務トラブルが生じる可能性があるので注意が必要です。

①子供や孫名義の預金口座を作成し、贈与者が通帳や銀行印を管理しているケース

[トラブルの種]

贈与者に相続が発生した際、子どもや孫名義の預金口座は、被相続人(贈与者)の相続財産(いわゆる「名義預金」)とみなされる可能性があります。

[防止策]

生前贈与があった事実が確認できるように準備する必要があります。たとえば、「贈与契約書を作成する」、「通帳や銀行印は受贈者本人に手渡す」などがその方法として考えられます。

②将来数年間にわたって贈与を約束する書面や約束を交わしていたケース

[トラブルの種]

書面を交わした時点で、数年間にわたる贈与金額を一括で贈与(連年贈与)したとみなされる可能性があります。

[防止策]

贈与の行為や贈与の金額については、1年ごとに贈与者および受贈者の間で契約が行われている事実が確認できるように準備する必要があります。たとえば、1年ごとに贈与契約書を作成することなどがその方法として考えられます。