生命保険料の贈与―贈与の事実
Q.父親の相続税対策の一環として下記の生命保険に加入する予定です。
・保険契約者:孫
・被保険者:孫
・保険金受取人:子
保険料は毎年100万円で、保険料の支払いは父親から孫への暦年贈与により行う予定です。注意する点がありましたら教えてください。
◆ポイント!
①父親から孫への保険料の贈与(生前贈与)に関して「贈与の事実」を確実にしておくことが重要です。
②保険料100万円の現金贈与が毎年行われていることを確認できるようにします。父親の口座から孫の口座に100万円の振込みを毎年行い、保険料は孫の口座から引落しで支払うようにします。
③生命保険料の負担者は孫であることから、所得税の生命保険料控除は孫が行うようにします。
④贈与の事実を立証できる書類等(贈与契約書、贈与税の申告書等)を準備します。
A.平成27年1月1日以降の相続等について、基礎控除額が大幅に縮小されたことにより、生前贈与を検討する方が増加しています。生前贈与を行う際に、贈与者は受贈者の両親や祖父母であることから、相続税の節税ができるとわかっていながら、教育的観点から、なかなか贈与を実行できない場合があります。
そのような状況において、生命保険契約を使った生前の暦年贈与は非常に有効です。保険契約者を子や孫などの受贈者にして、保険料相当の現預金を親から子や孫に贈与を行う形での生前の暦年贈与です。
保険料の生前贈与をめぐっては、生前贈与を失敗することがあります。すなわち、「贈与の事実」が認められず、このQのケースであれば、保険契約者は孫でありながら、その保険料の負担者は父親であるとされ、保険契約が父親の相続財産であるとされる場合です。
◆ケーススタディ
次の2つのケースで比べてみます。
(A)ケース1
・保険契約者:孫
・被保険者:孫
・保険金受取人:子
・保険料は毎年100万円で、支払は父親が現金振込により行っていた。
・孫は父親が保険料の負担をしてくれていることを知っていたが、贈与契約書までは作成していなかった。
・保険料の生命保険料控除証明書の提出は行っていなかった。
⇒保険契約は実質的に父親の財産であるとされる可能性が高い
・保険事故発生時→父親から子への贈与
・父親に相続発生時→保険契約に関する権利が父親の相続財産
(B)ケース2
・保険契約者:孫
・被保険者:孫
・保険金受取人:子
・保険料は毎年100万円で、保険料の引落しは孫の預金口座から行われていた。父親は毎年保険料の引落し前に100万円を父親の預金口座から孫の預金口座へ振込手続を行っていた。
・孫は年末調整で会社に生命保険料控除証明書の提出を行っていた。
⇒保険契約は孫の財産であると認定される可能性が高い
・保険事故発生時→孫のみなし相続財産
・父親に相続発生時→保険契約は孫の固有財産である
保険料の贈与を行う場合、「贈与の事実」つまり、保険料の実質的負担者について検討する必要があります。このQのケースでは、「保険料を実質的に負担したのは孫であり、その保険料を支払うために、孫は父親から現預金の贈与を受けた」ということを確実にする必要があります。「保険料の実質的な負担者は孫であること」を証明するためには、毎年の保険料100万円を孫が支払ったことを証明する必要があります。そのためには、保険料の引落しは保険契約者である孫の口座からの引落しで支払うようにすることが重要です。つぎに、「保険料の支払原資である現預金を父親から孫へ毎年贈与が行われたこと」を確認できる資料の存在が必要です。父親の預金口座から孫の預金口座へ毎年100万円の振込みを行うことや、父親と孫で毎年100万円の贈与契約書を作成し、署名捺印を行うことなどが重要です。また、生命保険料の所得控除を孫が毎年受けていることを証する確定申告書や源泉徴収票なども合わせて証明する資料となり得るかと思われます。
保険料の実質的負担者について参考となる裁決例を紹介しましょう。
相続税の課税財産―保険金
毎年保険料相当額の贈与を受けその保険料の支払に充てていた場合における受取保険金は、相続により取得したものとはみなされないとした事例 (全部取消し・昭和56年分相続税・昭59-02-27裁決)
TAINSコード:J27-4-01 【裁決事例集第27集231頁】
[裁決の要旨]
未成年者である請求人が受け取った保険金については、1)その保険契約を被相続人が親権者として代行し、保険料の支払に当たつては、その都度被相続人が自己の預金を引き出して、これを請求人名義の預金口座に入金させ、その預金から保険料を払い込んだものであること、2)保険料は、被相続人の所得税の確定申告において生命保険料控除をしていないこと、3)請求人は、贈与のあつた年分において贈与税の申告書を提出し納税していることから請求人は贈与により取得した預金をもって保険料の払込みをしたものと認められるので当該保険金を相続財産とした更正処分は取消しを免れない。 裁決年月日 S59-02-27 裁決事例集 J27-4-01