賃貸アパートの名義

Q.母親の所有する財産は下記のとおりです。父親はすでに他界しており、母親の法定相続人は長男と二男の2人です。

・母親の自宅の土地 165㎡(相続税評価額10,000万円)

・母親の自宅の建物 (相続税評価額1,000万円)

・自宅近隣の空地 100㎡(相続税評価額12,000万円)

・預貯金 (銀行預金残高3,000万円)

※母親と長男は同居しており、自宅土地建物は長男が相続する予定です。

※自宅近隣の空地(借地権割合70%)は二男が相続する予定です。

自宅近隣の空地に賃貸アパートを建築すると相続税の節税ができると不動産会社から提案がありました。アパートの建物の名義は、(A)母親と(B)二男のどちらにするのがよいかアドバイスをお願いします。

ポイント!

①建物の名義(母親または二男)が、土地の相続税評価額に影響を与えます。

②建物の名義人(母親または二男)が、原則としてアパート家賃について所得税(不動産所得)の申告を行うことになります。

③相続税上の財産評価の圧縮を優先的に検討すると、母親名義で建築したほうが節税になりますが、年々の不動産所得の蓄積を考え、長時間で判断すると、二男名義で建築したほうが節税になります。将来のことをよく検討したうえで、相続と所得の両面から総合的に判断する必要があります。

A.母親名義の空地に賃貸アパートを建築する場合に、賃貸アパートの建物の名義人を誰にするべきかという内容です。賃貸アパートを建築する際に、土地の所有者名義で建築するのか、もしくは土地の所有者と異なる者の名義で建築するのかは、非常に多くの方から質問がある事項です。まず、年々の所得の面から考えると、土地の所有者である母親の名義とするよりも、二男名義としたほうが、賃貸アパートの賃料収入による預貯金財産の増加、ひいては相続財産の増加を抑えることができるのではないかと考えられます。一方、相続税の財産評価の面から考えると、土地の所有者と建物(賃貸アパート)の所有者が同一である場合、土地の財産評価額は「貸家建付地評価」となり、自用地評価額から一定の割合が減額されること、また、建物建築価額と固定資産税評価額に差異が生じることから、母親名義としたほうが相続税の財産評価上の圧縮効果があると考えられます。上記の点を考えると、建物の名義を母親にするのか二男にするのかについては非常に複雑な検討と総合的な判断を要することになります。

(A)母親名義の場合

まずは、賃貸アパートを母親名義とした場合の所得税、相続税の課税上の取扱いについて説明します。母親名義とした場合、土地と建物の所有者が同一人であるため、地代のやりとりや、税務上の借地権の取扱いについて複雑な判断をする必要がありません。下記に各課税時点((ⅰ)賃貸アパート完成時、(ⅱ)アパート完成時~母親相続発生前、(ⅲ)母親相続発生時)における課税関係についてまとめました。

(ⅰ)賃貸アパート完成時:課税上検討すべき事象は生じません。

(ⅱ)アパート完成時~母親相続発生前:【所得税】アパート家賃収入⇒母親の不動産所得(所得税確定申告)

(ⅲ)母親相続発生:【所得税】アパート家賃収入⇒母親の不動産所得(所得税準確定申告)

※所得税準確定申告…母親の所得税確定申告の提出および納税を相続人が行います。

【相続税】建物…固定資産税評価額×(1-借家権割合)×賃貸割合

賃貸アパートの固定資産税評価額が3,500万円であると仮定すると、建物の財産評価額は、3,500万円×(1-0.3)×100%=2,450万円となります。

土地…自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合)×賃貸割合

借地権割合が70%、賃貸割合が100%であると仮定すると、土地の財産評価額は、12,000万円×(1-0.7×0.3)×100%=9,480万円となります。

(B)二男名義の場合

つぎに、賃貸アパートを二男名義とした場合の各課税時点における課税関係について説明します。

(ⅰ)賃貸アパート完成時(借地権設定時)

建物の所有者と、土地の所有者が異なる場合、下記の3要素によって課税関係が異なってきますので留意する必要があります。

①契約形態(使用貸借なのか賃貸借なのか)

②権利金(借地権相当額)の授受があるのか

③地代の金額はどの程度なのか

(a)母親が二男に土地の使用を無償で認める(使用貸借である)場合

母親(土地の所有者):課税関係なし

二男(借地人):課税関係なし

(b)母親が二男と土地の賃貸借契約を締結している場合

借地権相当の権利金の授受の有無および地代の設定金額により、下記の課税関係となります。

・母親(土地の所有者)

権利金なし:地代[相当の地代]…課税関係なし

地代[相当の地代]未満…課税関係なし

権利金あり:権利金収入⇒原則:不動産所得 ※時価の2分の1超:譲渡所得

・二男(借地人)

権利金なし:地代[相当の地代]…課税関係なし(借地権認定課税なし)

地代[相当の地代]未満…借地権認定課税有り(贈与税)

権利金あり:借地権の取得⇒非償却資産

ここで、改めて、「相当の地代」とは、どの程度の地代のことを示しているのか、個別通達で確認しておきましょう。

【相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて】

(中略)

(相当の地代を支払って土地の借受けがあった場合)

1 借地権(建物の所有を目的とする地上権又は賃借権をいう。以下同じ。)の設定に際しその設定の対価として通常権利金その他の一時金(以下「権利金」という。)を支払う取引上の慣行のある地域において、当該権利金の支払に代え、当該土地の自用地としての価額に対しておおむね年6%程度の地代(以下「相当の地代」という。)を支払っている場合は、借地権を有する者(以下、「借地権者」という。)については当該借地権の設定による利益はないものとして取り扱う。この場合において、「自用地としての価額」とは、昭和39年4月25日付直資56ほか1課共同「財産評価基本通達」(以下「評価基本通達」という。)25(貸宅地の評価)の(1)に定める自用地としての価額をいう(以下同じ。)。ただし、通常支払われる権利金に満たない金額を権利金として支払っている場合又は借地権の設定に伴い通常の場合の金銭の貸付けの条件に比し特に有益な条件による金銭の貸付けその他特別の経済的な利益(以下「特別の経済的利益」という。)を与えている場合は、当該土地の自用地としての価額から実際に支払っている権利金の額及び供与した特別の経済的利益の額を控除した金額を相当の地代の計算の基礎となる当該土地の自用地としての価額とする。

(注)

1 相当の地代の額を計算する場合に限り、「自用地としての価額」は、評価基本通達25《貸宅地の評価》の(1)に定める自用地としての価額の過去3年間(借地権を設定し、又は借地権若しくは貸宅地について相続若しくは遺贈又は贈与があった年以前3年間をいう。)における平均額によるものとする。

2 本文のただし書きにより土地の自用地としての価額から控除すべき金額があるときは、当該金額は、次の算式により計算した金額によるのであるから留意する。

(算式)

その権利金又は特別の経済的な利益の額×当該土地の自用地としての価額/借地権の設定時における当該土地の通常の取引価格

(以下省略)

(ⅱ)アパート完成時~母親相続発生前:

・母親(土地の所有者):

使用貸借…課税問題なし

賃貸借…不動産所得(所得税)

・二男(借地人)

使用貸借…課税問題なし

賃貸借…経費(所得税)

(ⅲ)母親に相続発生:

母親に相続が発生した場合、母親の相続財産は土地となりますが、土地の財産評価額に留意する必要があります。

(a)使用貸借の場合

母親(土地の所有者):自用地評価 12,000万円

(b)賃貸借の場合

権利金の授受の状況および地代の設定金額により、下記のとおりとなります。

※権利金は借地権相当額での授受を前提としています

・母親(土地の所有者)

権利金なし:地代[相当の地代]…自用地評価額×80%

※下記個別通達6参照

地代[相当の地代]未満…※下記個別通達7参照

権利金あり:自用地評価額×(1-借地権割合)

【相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて】

(中略)

(相当の地代に満たない地代を支払って土地の借受けがあった場合)

2 借地権の設定に際しその設定の対価として通常権利金を支払う取り引き上の慣行のある地域において、当該借地権の設定により支払う地代の額が相当の地代の額に満たない場合、借地権者は、当該借地権の設定時において、次の算式により計算した金額から実際に支払っている権利金の額及び供与した特別の経済的利益の額を控除した金額に相当する利益を土地の所有者から贈与により取得したものとして取り扱う。

(算式)

自用地としての価額 ×【借地権割合×(1-実際に支払っている地代の年額-通常の地代の年額/相当の地代の年額-通常の地代の年額)】

上記の算式中の「自用地としての価額」等は、次による。

(1)「自用地としての価額」は、実際に支払っている権利金の額又は供与した特別の経済的利益の額がある場合に限り、1(相当の地代を支払って土地の借受けがあった場合)の本文の定めにかかわらず、借地権の設定時における当該土地の通常の取引価額によるのであるから留意する。

(2)「借地権割合」は、評価基本通達27(借地権の評価)に定める割合をいう。

(3)「相当の地代の年額」は、実際に支払っている権利金の額又は供与した特別の経済的利益の額がある場合であっても、これらの金額がないものとして計算した金額による。

(注)通常権利金を支払う取引上の慣行のある地域において、通常の賃貸借契約に基づいて通常支払われている地代を支払うことにより借地権の設定があった場合の利益の額は、次に掲げる場合に応じ、それぞれ次に掲げる金額によるのであるから留意する。

 (1)実際に支払っている権利金の額又は供与した特別の経済的利益の額がない場合、  評価基本通達27(借地権の評価)により計算した金額

 (2)実際に支払っている権利金の額又は供与した特別の経済的利益及び供与した特別の経済的利益の額を控除した金額

(中略)

(相当の地代に満たない地代を支払っている場合の借地権の評価)

4 借地権が設定されている土地について、支払っている地代の額が相当の地代の額に満たない場合の当該土地に係る借地権の価額は、原則として2(相当の地代に満たない地代を支払って土地の借受けがあった場合)に定める算式に準じて計算した金額によって評価する。

(中略)

(相当の地代を収受している場合の貸宅地の評価)

6 借地権が設定されている土地について、相当の地代を収受している場合の当該土地に係る貸宅地の価額は、次によって評価する。

(1)権利金を収受していない場合又は特別の経済的利益を受けていない場合

当該土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額

(2)(1)以外の場合

当該土地の自用地としての価額から3(相当の地代を支払っている場合の借地権の評価)の(2)による借地権の価額を控除した金額(以下この項において「相当の地代調整貸宅地価額」という。)

ただし、その金額が当該土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額を超えるときは、当該土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額

(注)上記(1)及び(2)のただし書に該当する場合において、被相続人が同族関係者となっている同族会社に対し土地を貸し付けている場合においては、昭和43年10月28日付直資3-22ほか2課共同「相当の地代を収受している貸宅地の評価について」通達(以下「43年直資3-22通達」という。)の適用があることに留意する。この場合において、上記(2)のただし書に該当するときは、43年直資3-22通連中「自用地としての価額」とあるのは、「相当の地代調整貸宅地価額」と、「その価額の20%に相当する金額」とあるのは「その相当の地代調整貸宅地価額と当該土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額との差額」と、それぞれ読み替えるものとする。

(相当の地代に満たない地代を収受している場合の貸宅地の評価)

7 借地権が設定されている土地について、収受している地代の額が相当の地代の額に満たない場合の当該土地に係る貸宅地の価額は、当該土地の自用地としての価額から4(相当の地代に満たない地代を支払っている場合の借地権の評価)に定める借地権の価額を控除した金額(以下この項において「地代調整貸宅地価額」という。)によって評価する。ただし、この金額が当該土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額を超える場合は、当該土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額によって評価する。なお、被相続人が同族関係者となっている同族会社に対し土地を貸し付けている場合には、43年直資3-22通達の適用があることに留意する。この場合において、同通達中「相当の地代」とあるのは「相当の地代に満たない地代」と、「自用地としての価額」とあるのは「地代調整貸宅地価額」と、「その価額の20%に相当する金額」とあるのは「その地代調整貸宅地価額と当該土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額との差額」と、それぞれ読み替えるものとする。(以下省略)