空地の有効活用② 建築前に検討するべき事項
Q.母親の所有する財産は下記のとおりです。父親はすでに他界しており、母親の法定相続人は長男と二男の2人です。
・母親の自宅の土地 165㎡(相続税評価額10,000万円)
・母親の自宅の建物 (相続税評価額2,000万円)
・自宅近隣の空地 100㎡(相続税評価額12,000万円)
・預貯金 (銀行預金残高3,000万円)
※母親と長男は同居している。
自宅近隣の空地に賃貸アパートを建築すると相続税の節税ができると不動産会社から提案がありました。建築前にどのようなことを検討するべきでしょうか。
◆ポイント!
①相続財産全体の把握をします。
②相続財産の分け方を検討します。
③各相続人の相続税納税負担の現状(納税資金)を把握します。
④相続財産の圧縮(相続税の節税)を検討します。
⑤賃貸アパート事業のキャッシュ・フローを検討します。
A. 空地や駐車場に賃貸アパートを建築すると、相続財産の圧縮効果があります。しかし、相続財産の圧縮(相続税の節税)だけを検討して、賃貸アパートの建築を進めてしまうと、相続税の納税資金が不足してしまったり、相続人間で財産の分割で争いが生じたりすることがあります。賃貸アパート等の建築を計画するにあたり、事前に下記の順番で検討することが望まれます。
①相続財産全体の把握
まず、相続財産の全体像を把握することが重要です。母親の財産は下記のとおりです。
・自宅土地建物 12,000万円
・青空駐車場 12,000万円
・預貯金 3,000万円
母親が契約している生命保険契約や、会員権等についてもこの時点で把握するべきです。
②相続財産の分け方
つぎに、相続財産を相続人間でどのように分けるのかを検討します。このQのケースでは、母親の法定相続人は長男と二男の2人ですので、母親と長男と二男で財産の分け方について話し合います。母親がすでに遺言書を作成している場合もありますので、その点についても確認しておくべきでしょう。このQのケースで、長男と二男と母親で話し合った結果、下記のように財産を分けることが決まったとします。
・自宅土地建物 12,000万円 ⇒ 長男が相続予定
・青空駐車場 12,000万円 ⇒ 二男が相続予定
・預貯金 3,000万円 ⇒ 長男と二男で各2分の1相続予定
③各相続人の相続税納税負担額の現状把握
相続財産の分け方に大枠合意がなされたら、現状における相続税納税負担額の概算値を把握しましょう。上記②のとおり相続財産を分けた場合の納税負担の概算値は下記のとおりとなります。
○長男
自宅土地 10,000万円
自宅建物 2,000万円
預貯金 1,500万円
小規模宅地等評価減 △8,000万円
課税価格の合計額 5,500万円
あん分割合 0.2895
各人の相続税額 約880万円
○二男
空地 12,000万円
預貯金 1,500万円
課税価格の合計額 13,500万円
あん分割合 0.7105
各人の相続税額 約2,160万円
○合計
課税価格の合計額 19,000万円
基礎控除額 △ 4,200万円
遺産課税総額 14,800万円
相続税の総額 3,040万円
上記の試算結果から、長男は母親から相続する預貯金1,500万円から相続税の支払が可能であることがわかります。一方、二男は母親から相続する預貯金1,500万円では相続税の支払ができないことが予想されます。二男は不足している納税資金の準備について検討する必要が生じます。
④相続財産の圧縮の検討(空地に賃貸アパート建築した場合の効果)
相続税納税負担額現状把握を行った結果、二男に相続税納税資金の不足が生じることがわかりました。では、二男が相続する予定の空地に賃貸アパート(建築価額5,000万円)を建築した場合の相続税額への影響について検討しましょう。なお借地権割合は70%であることを前提とします。
○長男
自宅土地 10,000万円
自宅建物 2,000万円
預貯金 1,500万円
小規模宅地等評価減 △8,000万円
課税価格の合計額 5,500万円
あん分割合 0.5985
各人の相続税額 約388万円
○二男
空地 9,480万円
預貯金 1,500万円
アパート建物 2,450万円
借入金 △5,000万円
小規模宅地等評価減 △4,740万円
課税価格の合計額 3,690万円
あん分割合 0.4015
各人の相続税額 約260万円
○合計
空地(アパート敷地) 12,000万円×79%
アパート建物 5,000万円×70%×70%
借入金 アパート建築資金
課税価格の合計額 9,190万円
基礎控除額 △ 4,200万円
遺産課税総額 4,990万円
相続税の総額 648万円
上記の試算により、長男の相続税納税予定金額は約880万円から約388万円に減少し、二男の相続税納税予定金額は約2,160万円から約260万円に減少することがわかりました。空地にアパートを建築し、二男がアパート事業の引き継ぐことで、相続財産の圧縮効果に加えて、アパート敷地に対して小規模宅地等の評価減の適用が可能となり、相続税の負担が大きく減少することがわかります。
⑤賃貸アパート事業のキャッシュ・フローの検討
④の検討の結果、賃貸アパートを建築することで、相続税の納税負担が大きく減少し、相続税が母親の預貯金から捻出できることがわかりました。最後に、賃貸アパート事業の建物建築資金のために借入した5,000万円の返済計画について検討する必要があります。賃貸アパートを借入金で建築した場合、賃貸アパートのキャッシュ・フローを検討することが非常に重要です。賃貸アパートを建築したことにより、相続財産の圧縮がなされ、相続税の納税負担が軽減することは④で検討しましたが、賃貸アパート建築資金の借入金の返済のために、毎年キャッシュ・フローが赤字になるようでは、相続税の節税を実現した意味が薄れてしまいます。賃貸アパートのキャッシュ・フローは20年後まで検証するのがよいでしょう。その場合に、家賃相場の変動やアパート修繕費用(大規模修繕費用の積立)などの事項は専門家等を交えてよく検討することが重要です。