連帯債務と債務控除―債務控除できる場合

Q.父親には銀行からの借入金が5,000万円あります。借入金は父親の年齢等から、長男との連帯債務として融資が実行されました。借入金は、父親が所有する土地にアパートを建築した際の建設資金として使いました。アパート建築の名義は父親が100%所有している状態です。父親に相続が発生した場合、銀行からの借入金残額は、相続税の計算上債務として控除できますか。

ポイント!

①連帯債務者各人の負担すべき割合に応じて債務控除額が定まります。

②連帯債務者間の負担すべき割合は、原則として連帯債務者間での合意に基づいて定まることになります。

③連帯債務を実質的に父親が返済している状態であれば、父親の債務として借入金の総額が債務控除の対象となります。

A. このQのように、父親がアパートの建築資金として、金融機関等から融資を受ける際、父親の年齢等から子が連帯債務者としたうえで融資が実行される場合があります。連帯債務とは、数人の債務者が、同一の債務について、各自が独立に債務の負担を負い、数人の債務者のうち1人により債務の返済があれば、他の債務者も債務を免除される債務をいいます(民法432条)。

このQでは、金融機関からの借入金は、父親と子の連帯債務となっていますが、父親に相続が発生した場合、相続税の計算において債務控除できる借入金の割合がどの程度になるのでしょうか。

[保証債務及び連帯債務] 相続税法基本通達14-3

保証債務及び連帯債務については、次に掲げるところにより取り扱うものとする。

(1)保証債務については、控除しないこと。ただし、主たる債務者が弁済不能の状態にあるため、保証債務者がその債務を履行しなければならない場合で、かつ、主たる債務者の求償して返還を受ける見込みがない場合には、主たる債務者が弁済不能の部分の金額は、当該保障債務者の債務として控除すること。

(2)連帯債務については、連帯債務者のうちで債務控除を受けようとする者の負担すべき金額が明らかとなっている場合には、当該負担金額を控除し、連帯債務者のうちに弁済不能の状態にある者(以下14-3において、「弁済不能者」という。)があり、かつ、求償して弁済を受ける見込みがなく、当該弁済不能者の負担部分をも負担しなければならないと認められる場合には、その負担しなければならないと認められる部分の金額も当該債務控除を受けようとする者の負担部分として控除すること。

相続税法基本通達では、連帯債務についての債務負担者間で負担すべき金額が明らかになっている場合、つまり、債務負担割合が明確になっている場合には、その割合で債務控除を受けることとされています。

では、連帯債務者間で債務負担割合について特段の合意がなされていない場合にどのように判断するべきでしょうか。以下に債務控除割合についての裁決例を掲載します。

債務控除

被相続人と受遺者との連帯債務につきその全額を債務控除すべきであるとした事例(全部取消し、一部取り消し・昭和49年分相続税・昭57-01-14裁決) TAINSコード:J23-4-01

[裁決の要旨]

原処分においては、本件借入金は被相続人と受遺者(被相続人の孫)との連帯債務であるとし、その負担割合は被相続人と受遺者とが等分であつて、当該借入金につき相続税の課税価格の計算上債務控除すべき金額は、当該借入金の2分の1相当額であるとしているが、一般に連帯債務者間の負担部分は当該債務者の特約(合意)によつて定まるのであるが、特約がないときは連帯債務により受けた利益の割合によつて定まり、なおこれによつて定まらないときには各自が平等の割合により負担するものと解されるところ、本件の場合は、連帯債務者間において負担部分に関する特約は認められないが、当該借入金の運用状況をみると、すべて被相続人が運用し、その運用で得た財産はほとんどが相続財産として申告されており、また、受遺者が運用した事実は認められず、実際に連帯債務による利益を享受したのは被相続人であると認められるから、当該借入金の全額は、被相続人の債務として債務控除するのが相当である。 裁決年月日 S57-01-14 裁決事例集 J23-4-01

上記裁決例は、連帯債務者間において負担部分に関する特段の合意が認められない場合には、連帯債務により受けた利益の割合により債務の負担割合を判断しています。このQのケースは全額債務控除できると考えられます。