名義預金の取扱い② 生前贈与で蓄積した孫名義の預金

Q.平成29年12月1日、父親に相続が発生しました。父親の相続人は、長男、二男の2人です。父親の自宅の金庫の中から、長男の子(甲)と二男の子(乙)の名義となっている銀行預金通帳が出てきました。

・A銀行B支店甲名義の預金口座 相続時残高1000万円

・C銀行D支店乙名義の預金口座 相続時残高1000万円

 各口座は、平成20年2月1日から平成29年2月1日まで、毎年2月1日に現金100万円が入金されており、父親と甲乙の間で毎年贈与が行われていました。上記の預金口座は父親の財産として申告する必要がありますか。

ポイント!

①相続税は、相続または遺贈により取得した財産の全部に対して課税されます(相続税法2条1項)。

②被相続人から甲乙への贈与の事実について判断する必要があります。

③贈与の事実あり⇒甲乙の固有財産であり、父親の相続財産ではない

 贈与の事実なし⇒「名義預金」の該当の有無を判断する必要あり

A. 祖父母が孫の将来を考えて、孫名義の預金口座に少しずつ預金を蓄積してあげたいと考えることはよくあることです。また、贈与税(暦年贈与制度)は年に110万円の基礎控除額があることから、生前贈与を毎年行うことによって、相続税の節税も実現したいと考えることもよくあります。

孫名義の預金口座の残高が、「名義預金」と認められるのか否かについては、事実認定の問題であります。孫名義の預金口座の残高が甲乙1000万円ずつありますが、このQのケースでは、100万円ずつ10年間にわたる贈与があったということです。つまり、このQの場合は、「名義預金」の該当非該当を判定する前に、「贈与の事実」の判定を行う必要があります。

「贈与の事実」の判定についても贈与の事実の有無についての事実認定の問題となります。では「贈与の事実」の事実認定はどのように判断するのでしょうか。

まず、贈与とは、民法549条で下記のとおり定められています。

民法549条

贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受託することによって、その効力を生ずる。

つまり、贈与の事実を認定する場合のポイントは下記のとおりです。

・当事者の一方(つまり贈与者)の意思表示があること

・相手方(つまり受贈者)の受諾があること

※上記は書面によるものに限らず口頭の合意も含まれる。

このQのケースでは、被相続人から甲乙に対して毎年2月1日に100万円贈与を行い、その贈与を10年間続けました。「贈与の事実」を判断するにあたっては、贈与契約書の存在や贈与税の申告書の存在を確認することも重要ですが、下記の事項について税務申告を行う前に検討する必要があろうかと思われます。

◆被相続人である父親(贈与者)について、贈与の意思があったのか

たとえば、身体的な状況(認知症等)により、贈与の意思表示が困難であると認められる場合、贈与契約書が存在したとしてもその贈与の事実が税務上否認される場合があります。

◆孫である甲乙(受贈者)について、贈与を受諾したのか

たとえば、贈与があった事実(毎年甲乙の預金口座に100万円ずつ預金が蓄積されていること)を甲乙が生前から知っていたのか否か(甲乙が未成年者であったときは親権者が知っていたのか否か)について事実確認が行われ、贈与契約書が存在していたとしてもその贈与の事実が税務上否認される場合があります。

贈与契約書の作成や贈与税の申告書の提出は、「贈与の事実」を確認するにあたり重要な判断材料となりますが、契約書や申告書が存在することによって必ず「贈与の事実」が認定されるとは限らない、ということに留意する必要があるでしょう。