小規模宅地等の評価減の特例⑨ 孫が遺贈で取得したケース

Q.このたび、母親に相続が発生しました。母親の法定相続人は長男と二男の2人(父親はすでに他界)です。母親の財産は下記のとおりです。

・自宅土地建物 約5000万円

・預貯金    約4000万円

・有価証券   約2000万円

 母親は遺言を残しており、母親の自宅土地建物(母親は自宅で一人暮らし)は孫(長男の子)に遺贈、預貯金と有価証券は長男と二男で2分の1ずつ相続する内容となっています。

相続税の申告を行うにあたり、小規模宅地等の特例の適用はできるのでしょうか。孫は現在大学生で、両親(長男とその妻)と一軒家(長男が所有者)で同居しています。孫と被相続人間で仕送り等の経済的支援関係はなく、生計別親族であると考えられます。

 

ポイント!

①孫が被相続人の自宅敷地を遺贈された場合、「特定居住用宅地等」の適用要件のうちいわゆる「特定居住用宅地等」の適用要件のうちいわゆる「家なき子特例」を満たすか否かの判断となります。

②特定事業用、特定居住用、特定同族会社事業用、貸付事業用のいずれにおいても、取得者が親族であることが要件になっており、孫は親族に該当することとなります。

③孫は相続税の申告期限まで、自宅敷地を継続保有することが適用要件です。

 

A.小規模宅地等の特例において、「個人が相続または遺贈により取得した財産」と規定されています。つまり、法定相続人ではない個人が遺言により取得した財産についても特例の適用対象となります(租税特別措置法69条の4第1項)。

 

◆「特定事業用宅地等」「特定居住用宅地等」「特定同族会社事業用宅地等」「貸付事業用宅地等」の適用要件として共通するのは、「被相続人の親族」が相続または遺贈により取得したものであるという点です。親族とは一般的には血統・婚姻によってつながる人々をいいますが、法律上は6親等内の血族、配偶者および3親等内の姻族をいいます(民法725条)。

 

◆養子縁組の場合

Q.ところで、被相続人と親族ではなかった者が養子縁組した場合に、その養子が特例対象宅地等を相続により取得した場合は、小規模宅地等の特例の適用は可能なのでしょうか。

A.民法809条に、「養子は、縁組の日から養親の摘出子の身分を取得する」と規定されています。よって上記のケースで、養子が小規模宅地等の特例の適用においてその要件を満たす場合には、特例の適用が可能となります。

 

小規模宅地等の特例(家なき子特例)の見直し(平成30年度税制改正)

(再掲)

(1)改正前の概要

小規模宅地等の特例とは、被相続人の自宅の宅地等を同居していた親族が相続した場合に、その宅地等の評価額の80%を課税価格から減額する制度です。ところが、同居していない親族が相続した場合でも、次の要件を満たす場合にはこの特例を適用することができました(いわゆる「家なき子特例」)。

①法定相続人である配偶者、同居親族がいないこと

②宅地等を相続する親族が、相続前3年以内に本人(または配偶者)が所有する家屋に住んだことがないこと

③宅地等を相続する親族が、相続税の申告期限までその宅地等を所有していること

(2)平成30年度税制改正(平成30年4月1日以後の相続遺贈に適用)

上記の要件②の対象者から次の者が除外されることになります。

・相続開始前3年以内に、その者の3親等内の親族またはその者と特別の関係にある法人が所有する家屋に居住したことがある者。

・相続開始時において居住の用に供していた家屋を過去に所有していたことがある者

 

◆この改正により、次のような「家なき子特例」適用のための節税策が封じられることになります。

・相続開始3年以上前に相続人(長男)の所有する自宅家屋を親族または同族法人に売却し、相続人(長男)は親族または同族法人から賃借してそのまま住み続けることにより「家なき子特例」の適用を受ける節税策

・相続人(長男)がすでに自宅家屋を所有している場合に、相続人(長男)と同居している孫(長男の子)に対して、遺言により被相続人の自宅の宅地等を相続させることにより、「家なき子特例」の適用を受ける節税策