小規模宅地等の評価減の特例⑧ 期限後申告のケース

Q.母親と長男家族は、母親が所有する自宅土地建物に同居していました。母親が死亡してから2年経過しましたが、法定相続人である長男と二男の遺産分割協議がようやく成立しました。母親の相続財産は、土地建物約5000万円、預金等の金融資産約5000万円の合計約1億円です。長男は土地建物を相続し、二男は金融資産を相続するという内容で遺産分割協議書に署名捺印を行いました。相続税の期限内申告は行っていません。この場合において、相続税の期限後申告で、長男が相続した土地について小規模宅地等の特例の適用を受けることはできますか。

ポイント!

①小規模宅地等の特例は、原則として、相続税の申告期限までに分割されなかった特例対象宅地等には適用できない旨が規定されていますが、相続税の申告期限から3年以内に分割された特例対象宅地等についてはこの限りではない(運用できる)ことがただし書きで規定されています(租税特例措置法69条の4第4項)。

②小規模宅地等の特例は、相続税の申告書(期限後申告書、修正申告書を含む)に特例の適用を受けようとする旨を記載し、計算に関する明細書その他の一定の書類の添付がある場合に限り適用されます(租税特別措置法69条の4第6項)。

A.小規模宅地等の特例は、相続税申告書の提出期限(申告期限)までに共同相続人によって分割された特例対象宅地等に対して適用することができることが規定されています。一方で、相続税の申告期限までに特例対象宅地等の分割が確定しなかった場合(遺産分割協議が成立しなかった場合等)であっても、相続税の申告期限から3年以内に分割された場合は、特例の適用が可能である旨も規定されています。また、小規模宅地等の特例は、相続税の申告書(期限後申告書、修正申告書を含む)に規定の適用を受けようとする旨を記載し、計算に関する明細書や一定の書類等の添付が必要である旨が規定されています。これは、小規模宅地等の特例は相続税の申告書の提出を要件としており、その相続税の申告書には計算に関する明細書や一定の書類等の添付が必要であることを規定しているものです。

◆このQのケースでは、相続税の申告期限までに長男と二男は遺産分割協議を成立させることができませんでした。遺産分割協議書に署名捺印が完了したのは、母親の相続開始から2年後となりました。しかし、租税特別措置法69条の4第4項のただし書きにおいて、相続税の申告期限から3年以内に分割された特例対象宅地については適用できる旨規定されており、小規模宅地等の特例の適用が可能です。ただし、小規模宅地の特例の適用を受けるためには、租税特別措置法69条の4第6項に規定される相続税の申告書(期限後申告書を含む)の提出と、その相続税の申告書に、計算に関する明細書および一定の書類等の添付を行う必要があります。

◆このQでは相続税の申告期限において期限内申告書の提出を失念していましたが、実務上は下記の手順で相続税の申告を行うこととなります。

①期限内申告書の提出(母親の相続開始から10カ月以内)

相続財産が未分割の状況なので、長男と二男が法定相続割合で財産を分割したとして相続税の申告書を提出し、長男と二男それぞれが相続税を納税します。期限内申告において、特例対象宅地等が未分割であるため、小規模宅地等の特例の適用は受けることができません。期限内申告には、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出する必要があります(租税特別措置法施行規則23条の2第8項6号)。

②更正の請求書の提出(遺産分割協議成立後)

母親の相続財産の分割が確定した後、更正の請求書を提出します。更正の請求書とは、納める税金が多すぎた場合や還付される税金が少なすぎた場合に、これらの金額を正しい額に訂正するために提出する請求のことです。

◆特例対象宅地等の取得が長男に確定したことにより、小規模宅地等の特例の適用が可能となります。期限内申告書の提出時に納税した金額は小規模宅地等の特例を受けていないものとして計算を行っているため、小規模宅地等の特例の適用を受ける旨の申告書を再度提出(更正の請求書の提出)することにより、納めすぎた税金の還付を請求することになります。