小規模宅地等の評価減の特例⑦ 不動産売買契約の時期

Q.母親と長男家族は母親が所有する土地建物に同居していました。母親の相続により、長男は自宅の土地と建物を取得しました。長男は母親の相続の8か月後に自宅の土地と建物を第三者であるAに売却する契約を締結しました(売買契約時に契約金を受領)。売買契約書では、自宅土地および建物の引渡日は、母親の相続から1年を経過した日と定められていました。売買契約書に基づき、母親の相続から1年後に長男家族はAに自宅土地建物の引き渡しを行い(引き渡し時に引渡金を受領)、その後、新たに購入したマンションに引っ越しました。この場合において、被相続人である母親の相続税の申告で、自宅の土地は特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例の適用が可能でしょうか。

ポイント!

①「特定居住用宅地等」の適用要件の中に、相続税の申告期限までそこに居住していること(居住継続要件)および、相続税の申告期限までその宅地等を保有していること(保有継続要件)があります。

②宅地等を売却する場合において、売買契約書締結時(契約時点)と建物引渡時(引渡時点)が異なる場合に、保有継続用件を満たすか否かを判断する必要があります。(租税特別措置法69条の4第3項2号、同号イ)

A.「特定居住用宅地等」に係る小規模宅地等の特例とは、個人が相続や遺贈により取得した被相続人の居住していた宅地等のうち、以下の要件を満たす場合に、限度面積330㎡までの部分について、80%の割合で課税価格を減額する制度をいいます。

 ◆特定居住用宅地等の要件

区分:被相続人等の居住の用に供されていた宅地

特定の適用要件(取得者・取得者等ごとの要件)

(1)被相続人の配偶者:取得者ごとの要件はありません

(2)被相続人と同居していた親族:相続開始の時から相続税の申告期限まで引き続きその家屋に居住し、かつ、その宅地等を相続税の申告期限まで有している人

(3)被相続人と同居していない親族:①から③のすべてに該当する場合で、かつ、次の④および⑤の要件を満たす人:①相続開始の時において、被相続人もしくは相続人が日本国内に住所を有していること、または、相続人が日本国内に住所を有していない場合で日本国籍を有していること②被相続人に配偶者がいないこと③相続開始前3年以内に日本国内にあるその人またはその人の配偶者の所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く。)に居住したことがないこと⑤その宅地等を相続税の申告期限まで有していること

◆このQのケースにおいて、長男が「相続税の申告期限まで引き続きその家屋に居住」し、かつ、「その宅地等を相続税の申告期限まで有している」という要件を満たしているかどうかを判断することとなります。長男は被相続人である母親の相続から8か月後(相続税の申告期限前)に自宅土地建物の売買契約を締結しました。そして、母親の相続から1年後(相続税の申告期限後)に自宅土地建物の引き渡しを行ったうえで、引っ越しました。

長男がその宅地等を有していたのは売買契約締結時点まででしょうか。あるいは自宅土地建物の引渡時点まででしょうか。その答えのヒントとなる所得税基本通達36-12をここで紹介しましょう。

【山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期】

所得税基本通達36-12(一部省略)

山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、山林所得又は譲渡所得の基因となる資産の引渡があった日によるものとする。ただし、納税者の選択により、当該資産の譲渡に関する契約の効力発生の日により総収入金額に算入して申告があった時は、これを認める。(以下省略)

所得税の計算上、その年の譲渡にかかる総収入金額を確定する必要があります。総収入金額とは、所得税法36条で、「その年において収入すべき金額」と規定されていますが、その課税時点について判断基準を示しているのが所得税基本通達36-12です。この通達では、譲渡所得の基因となる資産の引渡のあった日を原則とし、納税者の選択により、その資産の譲渡に関する契約の効力発生の日によることも認めています。

このQでは、長男は相続税の申告期限前に売買契約を締結し、相続税の申告期限後に自宅建物の引き渡しを行いました。不動産取引において、売買契約時と引渡時が異なること、売買契約時点に契約金の授受があり、物件の引渡時に引渡金の授受がなされることは一般的な取引であること、また、所得税の基本通達において上記の取扱いがあることから、長男は「その宅地等を相続税の申告期限まで有している」と判断して差し支えないでしょう。

ただし特定居住用宅地等の適用要件には「相続税の申告期限まで引き続きその家屋に居住」することも要件の1つですので、土地建物の引渡しが相続税の申告期限後であったとしても、相続税の申告期限前に新しい自宅に引越しが完了している場合には、特定居住用宅地等に該当しないことに注意が必要です。