小規模宅地等の評価減の特例⑥ 固定資産税相当額で賃借したケース

Q. 父親所有の土地の上に長男が建物を建築しました。建築した建物は、長男家族(生計別親族)の自宅として使用されています。父母は長男家族とは別の場所に居住しています。長男は父親に対して土地賃借の権利金等は支払わず、土地の賃借料として、毎年、土地の固定資産税相当額を支払っています。父親に相続が発生した場合、当該土地は貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例の適用はできますか。

ポイント!

①固定資産税相当額の土地賃借料を支払う場合、賃貸借と認められるのか、使用貸借と認められるのかの事実認定の問題となります。

②使用貸借と認められる場合は、被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等とならないため、小規模宅地等の適用対象地となりません。

③賃貸借であると認められ、その他の適用要件(事業承継、事業継続、継続保有)を満たす場合は、小規模宅地等の適用可能ですが、土地賃借料の金額に留意する必要があります。

A.貸付事業用宅地等とは、被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等で、次の区分に応じてそれぞれに掲げる要件のすべてを満たしたものをいいます。要件を満たした場合には、200㎡を限度に50%の割合で課税価格を減額することができます。

貸付事業用宅地等の要件

区分①:被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等

適用要件:その宅地等に係る被相続人の貸付事業を相続税の申告期限までに承継し、かつ、その申告期限までその貸付事業を行っていること。その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。

区分②:被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の貸付事業のように供されていた宅地等

適用要件:相続開始の直前から相続税の申告期限まで、その宅地等に係る貸付事業を行っていること。その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。

このQにおいて、ポイントは2点あります。

1点目は、長男は父親から土地を借りる対価として、土地の固定資産税相当額の支払いを行っていることが、「賃貸借」に該当するのか、「使用貸借」に該当するのかを判断することです。「使用貸借」について、民法593条で次のとおり規定されています。また民法595条1項では、借用物の費用の負担について規定されています。

(使用貸借)

民法593条

使用貸借は、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還することを約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

(借用物の費用の負担)

民法595条1項

借主は、使用物の通常の必要費を負担する。

土地を借り受ける際に権利金等の授受がなく、土地の固定資産税相当額を賃貸料として支払うケースにおいて、上記民法の規定の趣旨に鑑みると「使用貸借」であると判断することが相当であると思われます。そこで、「賃貸借」と認められる賃借料がどの程度なのかという疑問が当然生じることになりますが、土地の賃借を「賃貸借」とみるか、「使用貸借」とみるかについては事実認定の問題となります。

土地の利用状況(自宅、アパート等)、土地周辺の地代相場、土地の維持にかかる一般的な経費、土地と建物所有者の関係性等について総合的に勘案したうえで判断することになります。判断する人(税理士等)によってもその判断が異なることが相当程度あります。特に土地と建物の所有者の関係が親族である場合は、その判断が困難になるケースが多く見受けられます。

このQでは、父親が長男に土地を貸しており、長男はその土地を長男の自宅として利用しています。「賃貸借」と認められる賃借料の判断を行う場合、①土地周辺の地代の相場について調査し、その相場と著しい差異がないこと、②所有者である父親が土地を維持するための一般的に考えられる経費(固定資産税等)を勘案したうえで、不動産賃貸業として利益が生じていること、の2点は最低限必要であると考えます。さらに、親子間での土地の貸借関係であることから、長男に借地権の存在が認められるに足る契約内容および権利金の支払い事実が存在するのか否かについても非常に重要な判断材料となるでしょう。ポイントの2点目は、「賃貸借」と認められる場合の借地権課税の問題です。父親の土地に長男が自宅を建築した時(土地の賃借が開始された時)に長男から父親に対して借地権相当の権利金の支払いを行わない場合が多数であると思われます。しかし、借地権の設定に際し通常権利金を支払う取引上の慣行のある地域において、借地権の設定時に権利金の支払いを行わない場合、借地権相当額が父親から長男へ贈与されたとみなされ、長男に贈与税が課税されます。ただし、一定の条件を満たせば、贈与税課税は免れます。その条件は以下に掲げる「相当の地代通達」に記されています。

【相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて】

(趣旨)

借地権の設定された土地について権利金の支払いに代え相当の地代を支払うなどの特殊な場合の相続税及び贈与税の取扱いを定めたものである。したがって、借地権の設定に際し通常権利金を支払う取引上の慣行のある地域において、通常の地代(その地域において通常の賃貸借契約に基づいて通常支払われる地代をいう。)を支払うことにより借地権の設定があった場合又は贈与があった場合には、この通達の取扱いによることなく、相続税法基本通達及び相続税財産評価に関する基本通達等の従来の取扱いによるのであるから留意する。

(相当の地代を支払って土地の借り受けがあった場合)

1 借地権(建物の所有を目的とする地上権又は賃借権をいう。以下同じ。)の設定に際し、その設定の対価として通常権利金その他の一時金(以下「権利金」という。)を支払う取引上の慣行のある地域において、当該権利金の支払いに代え、当該土地の自用地としての価額に対しておおむね年6%程度の地代(以下「相当の地代」という。)を支払っている場合には、借地権を有するもの(以下「借地権者」という。)については当該借地権の設定による利益はないものとして取り扱う。(以下省略)

つまり、「相当の地代通達」によると、権利金の支払いの慣行のある地域において、借地権設定時に権利金の支払いがないときに、借地契約期間中「相当の地代」の支払いが行われている場合は、借地権設定時に長男に対して贈与税課税を行わないものとして取り扱うことが記載されています。しかし、長男が父親に支払う土地賃借料が「相当の地代」に満たない場合においては、一定の計算式(相当の地代通達2(相当の地代に満たない地代を支払って土地の借り受けがあった場合)に記載)により、借地権設定時に遡り、長男に贈与税が課税されます。

◆貸付事業の用に供されていた宅地等

Q.ところで、このQのケースで、父親が所有する土地が貸付事業の用に供されていた宅地等に該当する場合に、長男が相続したら、小規模宅地の評価減の適用可能でしょうか。

A.土地を長男が相続した場合、父親と長男との間の土地の賃貸借は、民法179条による混同により、賃貸借契約は消滅することになります。つまり、小規模宅地等の特例の適用要件のうち、事業承継および事業継続の要件は満たさないことになります。よって、長男が土地を相続した場合には、被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等に該当したとしても、小規模宅地等の特例の適用は不可となります。