相続税申告書提出要否の判定③法人への遺贈のケース

 Q.令和2年3月に母親が亡くなりました。法定相続人は長男と長女の2人です。母親の遺した財産は下記の通りです。

・土地(自宅敷地) 3000万円 (令和2年路線価に基づく財産評価額)

・建物(自宅建物) 200万円 (令和2年固定資産税評価額)

・預貯金 1200万円

また、母親は遺言を残しており、遺言の内容は下記の通りでした。

・土地・建物 ⇒ 医療法人(持分の定めのある法人)に遺贈

・預貯金 ⇒ 長男・長女で2分の1ずつ相続

上記の場合において、相続税の申告書の提出は必要でしょうか。

◆ポイント!

①相続税の納税義務者は、相続または遺贈により財産を取得した個人です(相続税法1条の3第1項)

②譲渡所得の基因となる資産が法人に対して遺贈された場合、遺贈者にみなし譲渡所得の課税があります(所得税法59条1項1号)。

③所得税の準確定申告は、法定相続人である長男及び長女が申告書を提出し、納税をしなければならないものとされています(所得税法125条1項、所得税法129条、国税通則法5条)

A.相続税の納税義務者は、「相続または遺贈により財産を取得した人」と規定されています。したがって、このQのケースにおいて、個人である長男と長女が相続により取得した財産の合計額(相続税の課税価格の合計額)が、相続税の基礎控除額を超える場合、相続税の申告書の提出が必要となります。

  • 長男・長女の取得した財産の合計額 < 基礎控除額 ⇒ 申告不要
  • 長男・長女の取得した財産の合計額 > 基礎控除額 ⇒ 申告必要

つまり、このケースでは、母親の遺言は長男及び長女が母親の残した預貯金の2分の1ずつ相続で取得する内容になっているため、長男(1200万円×1/2=600万円)と、長女(1200万円×1/2=600万円)の合計額の1200万円が相続税の課税価格の合計額となります。

母親の相続税の基礎控除額は、3000万円+600万円×2人=4200万円ですので、相続税の課税価格の合計額1200万円<基礎控除額4200万円となり、相続税の申告書の提出は不要となります。

 

一方、土地建物が医療法人に遺贈されたことに関する税務の取り扱いはどのようになるのでしょうか。所得税法59条1項1号により、譲渡所得の基因となる資産が法人に対して遺贈された場合、遺贈者にみなし譲渡所得の課税があります。このQにおいて、税務上の考え方は、母親が所有していた土地と建物については、医療法人に対して時価で譲渡したとみなして、その譲渡益が生じる場合には、母親に対して所得税が課されることになります。

母親に対して課される所得税は、母親の準確定申告により納税が必要となり、相続開始から4カ月以内に税務署に所得税の申告書の提出が必要になります。この場合に課される所得税の納税義務者は、譲渡の原因たる遺贈という行為を行った母親ですが、納税者たる母親は遺贈の時に死亡しているので、その遺贈により生じた譲渡所得にかかる所得税の準確定申告書は、相続人である長男、長女が提出しなければならないことになります(所得税法125条1項)。そして、この準確定申告書の提出により納付を要する所得税は、その申告書を提出した相続人である長男、長女が納付しなければなりません(所得税法129条)。