小規模宅地等の評価減の特例④ 生計一親族居住用宅地のケース

Q.父親が所有する土地建物に長男家族は居住しています。長男は父親に対して家賃の支払いは行っていません。父親は長男家族とは別の場所に母親と一緒に居住しています。父親が亡くなったときは、長男家族が居住している土地建物は、長男が相続する予定です。この場合において、長男が相続する予定の長男自宅敷地は小規模宅地等の評価減の特例の適用は可能でしょうか。

ポイント!

①長男家族が居住している敷地は、被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当しません。

②長男は父親に対しての家賃の支払いを行っていないため、対象予定敷地は貸付事業用宅地等に該当しません。

③長男が父親と「生計一親族」である場合は、被相続人と生計を一とする親族の居住の用に供されていた宅地等に該当します。

④「生計一親族」に該当するか否かの判断は、総合的に検討する必要があります。(租税特別措置法69条の4第3項2号ハ)

 

A.小規模宅地等の評価減の特例(特定居住用宅地等)の適用にあたっては、次の要件を満たす必要があります。

①被相続人の居住の用に供されていた宅地等であること

②下記の者が相続遺贈により宅地等を取得し、一定の要件を満たすこと

 (イ)被相続人の配偶者

 (ロ)被相続人と同居していた親族で、相続税の申告期限までその家屋に居住し、かつその宅地等を相続税の申告期限まで有していること

 (ハ)被相続人と同居していない親族でいわゆる「家なき子特例」要件を満たすこと

 

一方、被相続人の居住の用に供されていなかったとしても、次の要件を満たす場合は、特定居住用宅地等に該当し、小規模宅地等の評価減の特例対象となります。

①「生計一親族」の居住の用に供されていた宅地等

②下記の者が相続遺贈により宅地等を取得し、一定の要件を満たすこと

 (イ)被相続人の配偶者

 (ロ)被相続人と生計を一にしていた親族で、相続税の申告期限までその家屋に居住し、かつその宅地等を相続税の申告期限まで有していること

 

小規模宅地等の評価減の特例における、特定事業用宅地等、特定居住用宅地等の該当可否の判定を行う中で、取得相続人等が被相続人と「生計を一にする」か否かの判断で大きな税額の差が出ることになります。相続税法のみならず、現行の税法において「生計を一にする」ことを要件にしている規定は多くありますが、生計を一にするか否かによって税法の規定の適用可否が決定されることとなり、申告実務上非常に重要な意味を持つことになります。ところが、「生計を一にする」という言葉の定義について、相続税法明確に定められた法令はありません。実務上は下記において示された通達を参考に検討することになります。

 

(生計を一にする) 国税通則法基本通達(第46条関係)9

この条第2項第2号の「生計を一にする」とは、納税者と有無相助けて日常生活の資を共通にしていることをいい、納税者がその親族と起居を共にしていない場合においても、常に生活費、学資金、療養費等を支出して扶養している場合が含まれる。なお、親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。

 

(生計を一にするの意義) 所得税基本通達2-47

法に規定する「生計を一にする」とは、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうものではないから、次のような場合には、それぞれ次による。

(1)勤務、修学、療養等の都合上、他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとする。

  イ.当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合

  ロ.これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合

(2)親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。

 

(生計を一にすること) 法人税基本通達1-3-4

令第4条第1項第5号(同族関係者の範囲)に規定する「生計を一にする」こととは、有無相助けて日常生活の資を共通にしていることをいうのであるから、必ずしも同居していることを必要としない。

上記の通達によれば、同一の家屋に起居している場合、つまり同居している場合は、原則的に「生計を一にしている」と考えていることがわかります。例外的に、同居していても、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合には「生計を別にしている」と考えているようです。一方、起居を共にしていない場合、つまり別居している場合においては、原則的には「生計を別にしている」と考えていることがわかります。しかし、経済的な支援関係が常態である場合(生活費、学費、療養費等)、その他、勤務、修学、療養等の都合上別居している場合も考慮し、総合的に検討したうえで「生計を一にする」か否か判断することが示されています。