未分割の場合の相続税の申告

Q.令和2年8月1日に、被相続人甲の相続が発生しました。甲の法定相続人は、甲の弟の乙、甲の妹の丙の2人です。甲の相続財産は自宅敷地(200㎡)1億円、自宅家屋5000万円、預金1億円の合計2億5000万円です。甲は、遺言を残していなかったため、乙、丙で遺産分割協議を行うことになりますが、甲の相続税の申告期限である令和3年6月1日までに遺産分割協議が完了できない見込みです。こうした場合における相続税の申告および納税手続きについて教えてください。

 

ポイント!

①相続税の申告は、死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内に行わなければなりません。遺産分割協議が成立していない場合においても、相続税の申告納税期限が延びることはありません。

②遺産分割協議が成立していない場合には、被相続人の財産を法定相続人が民法上の法定相続割合で取得したものとして相続税の申告納税を行わなければなりません。

③小規模宅地の特例や、配偶者の税額軽減の特例制度は、相続財産の分割が確定していることが適用要件となっているため、相続財産が未分割の状態での申告においては特例の適用を受けることはできません。

④当初の申告時に、未分割である相続財産について、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出し、申告期限から3年以内に遺産分割協議が成立した場合には、特例の適用を受けることができます。

 

A.相続税の申告と納税の期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内です。しかし、法定相続人間での遺産分割協議が成立しない場合には、相続税の申告納税はどのようにするのでしょうか。相続税と納税の期限は、上記のように遺産分割協議が成立しない場合においても、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内であり、遺産分割協議が成立しないことによる申告納税期限の延長はできません。

遺産分割協議が成立しない状態、つまり相続財産が未分割である状態で申告納税期限を迎えなければならない場合は、相続財産が法定相続人間で民法上の法定相続割合で分割されたものとして申告及び納税を行うこととなります。

つまり、このQにおいて、法定相続人の乙、丙の民法上の法定相続割合は各々2分の1ずつですので、すべての財産(土地、建物、預金)を乙と丙が2分の1ずつ相続したとして、相続税の申告および納税を行うことになります。

◆小規模宅地等の特例の適用

この場合において、土地に対して小規模宅地等の特例の適用は受けることはできません。なぜなら、小規模宅地等の特例の適用要件として、租税特別措置法69条の4には、「個人が相続または遺贈により取得した財産・・・」と規定されているからです。つまり、「遺産分割協議が未成立の状態≠相続により財産を取得」となり、小規模宅地の特例は受けられないことになります。この場合は、当初提出する相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出するようにしましょう。

◆申告期限後に遺産分割協議が成立した場合(修正申告と更正の請求)

では、相続税の申告期限後に遺産分割協議が成立した場合には、どのような申告手続きになるのでしょうか。たとえば、遺産分割協議を行った結果、このQのケースで、乙と丙が下記の通り財産を相続することが決まったとします。

・乙が取得した財産 ⇒ 土地、建物

・丙が取得した財産 ⇒ 預金

乙および丙は、当初申告時には相続財産が未分割の状態でしたので、すべての財産を法定相続割合の2分の1ずつ取得したものとして申告および納税を行いましたが、上記のとおり遺産分割協議が成立後の乙および丙の相続税の納税金額は異なることとなります。この場合、実際に分割した財産の額に基づいて、乙および丙は、相続税の修正申告または相続税の更正の請求を行うことができます。

また、遺産分割協議において、土地を取得した乙が小規模宅地の特例の適用要件を満たしている場合は、修正申告または更正の請求において、小規模宅地等の特例の適用を受けることができます(相続税の申告期限から3年以内に遺産分割協議が成立した場合)。

「修正申告」とは、当初申告(未分割状態による申告)した相続税額よりも、実際の分割(遺産分割協議成立後の申告)に基づく相続税額が多い場合の申告のことをいいます。「更正の請求」とは、当初申告した相続税額よりも、実際の分割に基づく相続税額が少ない場合の申告のことをいいます。

「更正の請求」は、相続税額の還付を請求するものとなるわけですが、遺産分割協議が成立したことを知った日から4カ月以内に請求を行わなければなりません(相続税法第32条)。