所有者不明土地の活用促進

法改正検討

政府は所有者がわからない土地の活用促進策の検討に入りました。公共目的で利用できる範囲を広げ、使用期限も20年間に延長する方向です。相続されずに放置される土地の増加が公共事業や地域の再開発の障害となっており、この問題を放置すれば経済活動の阻害要因になるとみて、利活用を急いでいます。

国土審議会の分科会では、7月下旬にも議論に着手し年内に方向性をまとめます。国土交通省は法務局と協議し、所有者不明土地を活用するための特別措置法の改正案を2022年の通常国会へ提出することを目指しています。

再生エネルギーや防災分野への活用

法改正では官民からエネルギーや防災分野の事業に幅広く使いたいとの要望の高まりを受け、特措法で定めた利用目的の規制を緩和し、活用できる不明土地の対象拡充を検討します。小規模な再エネ発電や蓄電設備も認め、例えば、道の駅に電力を供給する発電設備の導入などで電力の地産地消につなげます。防災設備は備蓄倉庫などを想定し、地域の防災力の向上に役立てる考えです。現行の使用期限10年では発電施設を作っても費用回収できない課題があったことから、20年間を軸に延長することで、金融機関からの資金調達もしやすくなるとみています。使用中に所有者が現れた場合には、期間終了後に土地をもとの状態に戻して返し、一方、所有者から異議が出なければ再延長も可能とします。

管理不全土地対策

また、ゴミの放置などで近隣に悪影響を及ぼす「管理不全土地」の対策も強化し、自治体が所有者に指導や勧告で対応を促しても状況が変わらなければ、ゴミ撤去など代執行の措置をとれる仕組みを作る考えです。所有者がわかっていても空き地になっている土地に対しては、地域単位の民間組織が使いたい人とマッチングする「ランドバンク制度」を導入します

所有者不明土地の減少へ

不明土地は公共事業を進める場合の用地取得や民間取引の妨げとなっており、人口減少や高齢化で今後さらに増加する懸念が高まっています。民間有識者らが2017年にまとめた報告書では、必要な対策を施さなければ2040年までに北海道の面積に迫る約720万ヘクタールに膨らむとの試算し、機会損失や税の滞納などで累計で約6兆円の経済損失が生じるとの予測も示しました。

特措法は施行から2年たつものの、制度の利用はいまだ低調です。不明土地を公共事業に活用しようと検討しているケースは全国で50件程度あるとされていますが、調査に時間を要するなど、まだ実現した事例は少ないと言えます。

2021年4月に成立した改正民法などでは、土地などの相続を知ってから3年以内に登記するよう義務付けました。これにより、不明土地の新規発生の抑制につながると政府は見ており、さらに特措法の改正で利活用を促進することで、放置された不明土地の減少につなげたい考えです。

◆所有者不明土地とは

不動産登記簿を調べても所有者がわからない土地や、所有者がわかっても連絡がつかない土地のことです。土地の所有者が亡くなり、相続の発生があっても、子どもなどの相続者の所有意識が薄く、登記されずに放置されるケースが多く見られます。このように遺産分割せずに相続が繰り返されると土地共有者が増え、管理が難しくなります。土地の管理が行き届かなくなると、不法投棄されたごみが異臭を放ったり、雑木が生い茂ったりして近隣にも悪影響を及ぼすなどの問題があります。また所有者がわからず同意を得られないため、公共事業を進める場合の用地取得や民間取引でも支障が目立っています。