【時事解説】早めの縮小均衡が会社を救う
企業の使命は利益をあげることです。利益は収益(売上)から費用を引いて算定されますから、利益を出すためには売上を増やすか、費用を削減するかしかありません。経営者が第一に考えるべきは、いうまでもなく売上の増加です。取扱い商品の付加価値を増やしたり、営業力を強化して売上の拡大に邁進します。
しかし、人口減少と将来不安による心理要因で国内需要の低迷は紛れもない事実です。大企業であれば海外進出も有力な選択肢ですが、多くの中小企業の主たるマーケットは国内に限定され、国内需要に依存している限り売上拡大は望み薄という会社も多いかと思います。そのときには、撤退戦略を考えなければなりません。売上が減れば、設備が過剰になります。当初は過剰分も有効に活用できるだけの売上確保に奔走します。それは当然の選択ですが、いつまでも資産規模に見合った売上拡大に執着していると、体力をいたずらに消耗し会社自体が持たなくなってしまいます。
将来を見極め、自社ではいかんともしがたい要因で売上が増えないのであれば、現状の売上に見合う規模に、資産を圧縮する方向への転換が必要となります。採算の取れないところから手を引き、利益率の高い商品やマーケットに集中し、生産や販売体制を縮小することも考えなければなりません。これを、決算書という視点から言い換えると、次のように表現することができます。大きな貸借対照表は、金利、減価償却費、在庫管理などの大きな経費負担を伴います。損益計算書の売上は縮小しているのに、貸借対照表が昔のままでは損益計算書で利益を出すことはできません。貸借対照表に見合う損益計算書の拡大が不可能であるなら、発想を変えて、縮小する損益計算書に合わせて、貸借対照表の資産と負債をスリム化しなければならないのです。
ただ、撤退するにも力(資金)が必要です。力がなくなれば、資金の出し手である銀行も相手にしてくれなくなります。黒字で経営体力のあるうちに撤退戦略が取れるかどうかが経営者の腕の見せ所です。一度縮小すると拡大が困難になるからと、躊躇する経営者もいるかもしれませんが、世の中はカネ余りなのですから、成長戦略さえしっかり描ければ、拡大はいつでもできると割り切るべきでしょう。売上拡大という前向きな方向への決断は簡単にできます。撤退という後ろ向きの決断は経営者にとってつらい選択になり、先送りになりがちです。しかし、ズルズルと決断を先延ばしにしていると手遅れになります。いつまでも夢を見ていたのでは会社の存続を危うくします。
少子高齢化は動かしがたい厳然たる事実であり、日本経済が急拡大する余地は乏しいと考える方が無難です。さらに、各国で貿易制限的措置が取られるなど、世界経済も先行き不透明です。本来、企業は成長を目指すべきものですが、それができないのであれば方向転換をせざるをえません。厳しい環境下では早めに縮小均衡に達した会社が生き残ることができるのです。つらい選択ですが、そうした難しい決断をすることが経営者の仕事だと思います。