配偶者居住権と配偶者短期居住権

配偶者の居住の権利は、平成30年の民法改正によって、新たに設けられた制度です。
遺産分割において、配偶者が居住していた建物の所有権を取得しなくても、終身または一定期間の使用ができる権利を取得することができます。配偶者居住権には、原則として終身の間存続する配偶者居住権と、短くとも6カ月間は存続する配偶者短期居住権があります。

(1)配偶者居住権とは・・・

相続開始の時に遺産に属する建物に居住していた被相続人の配偶者に認められる、その建物の全部について無償で使用及び収益をする権利です。

取得→遺産分割

遺産分割により取得

遺贈

遺贈の目的とされたとき取得

遺産分割の審判

➀家庭裁判所の審判で配偶者居住権の取得を定める
②共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについての合意が成立している場合
③配偶者が希望している場合で居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために必要があると認められる場合

存続期間→原則

終身

例外:遺産分割協議、遺言もしくは遺産分割の審判に別段の定めがなされた場合は、その定めに従う。

配偶者居住権設定の登記→登記義務者

居住建物の所有者

登記の効力

…居住建物について物権を取得した者その他第三者に対して対抗することができ、また、占有の妨害に対して妨害排除請求、返還請求ができる。

配偶者の使用収益→権利

➀居住建物の全部について無償で使用及び収益できる。
②従前居住の用に供していなかった部分にも居住できる。
③居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる。
④通常の必要費以外の費用は所有者に償還を求めることができる。

義務

➀配偶者は善管注意義務を負う。
②配偶者居住権は第三者に譲渡できない。
③居住建物は増改築できない。
④居住建物は第三者に使用収益させられない。
⑤居住建物が修繕を要するときまたは居住建物について権利を主張する者があるときには、所有者に対し、遅滞なく通知しなければならない。
⑥居住建物の通常の必要費を負担する。

消滅事由→死亡

配偶者が死亡した場合、配偶者居住権は消滅する。

期間の定め

遺産分割協議、遺言もしくは遺産分割の審判に消滅について別段の定めがあるときはその定めるときに当事者で期間を定めた時は、その期間が満了することにより消滅する。

混同

居住建物が配偶者の所有となった場合、配偶者居住権は消滅する。

所有者の意思表示

配偶者が善管注意義務に反したり、無断で増改築、第三者に使用収益させた場合で、所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正が されないときは所有者の意思表示で配偶者居住権は消滅する。

全部滅失等

居住建物の全部が滅失その他の事由により使用収益することができなくなったときは配偶者居住権は消滅する。

返還→返還義務

配偶者居住権が消滅した場合、居住建物を返還しなければなりません。

原状回復義務

相続開始後に居住建物に付属させたものがある又は損傷がある場合、配偶者は原状回復義務を負う。

遺産分割における評価→原則

配偶者は配偶者居住権相当額を相続したもの(特別受益)として扱われる。

例外:婚姻期間が20年以上の夫婦間の場合、被相続人は持ち戻しを免除する意思表示をしたものと推定される。

(2)配偶者短期居住権とは・・・

相続開始の時に遺産に属する建物に居住していた被相続人の配偶者に認められる、その建物の全部について無償で使用及び収益をする権利です。
被相続人の配偶者が居住建物につき無償で使用できる権利という点は、配偶者居住権と同様であり、建物使用にあたっての善管注意義務などの権利義務はほぼ共通です。ただし、その取得事由、存続期間などにつき違いがあります。○取得

相続開始時に遺産に属する建物に無償で居住していた場合に取得する。

存続期間

配偶者を含む共同相続人間で遺産分割する場合、遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6カ月を経過する日のいずれか遅い日まで。
所有者の配偶者短期居住権の消滅の申し入れがあった場合、申し入れの日から6カ月を経過する日まで。

配偶者居住権の設定の登記

登記制度はなし

配偶者の使用(収益)

居住建物(従前一部を使用していた場合はその部分)につき無償で使用できる。

消滅事由

配偶者が善管注意義務に反したり、無断で第三者に使用させた場合、所有者の意思表示で配偶者短期居住権は消滅する。
配偶者居住権を取得した時、配偶者短期居住権は消滅する。

返還

配偶者短期居住権が消滅した場合、居住建物を返還しなければなりませんが、配偶者居住権を取得した場合は、返還不要。

遺産分割における評価

遺産分割において考慮されない(配偶者の遺産の取り分として算入されない。