相続時精算課税制度

相続時精算課税の制度とは、原則として60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。

この制度を選択する場合には、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日の間に、一定の書類を添付した贈与税の申告書を提出する必要があります。

なお、この制度を選択すると、その選択に係る贈与者から贈与を受ける財産については、その選択をした年分以降全てこの制度が適用され、暦年課税へ変更することはできません。また、この制度の贈与者である父母又は祖父母が亡くなった時の相続税の計算上、相続財産の価額にこの制度を適用した贈与財産の価額(贈与時の時価)を加算して相続税額を計算します。
このように、相続時精算課税の制度は、贈与税・相続税を通じた課税が行われる制度です。

適用対象の要件は、次のとおりです。

  • 贈与者(贈与した人):贈与をした年の1月1日において、60歳以上である者。
  • 受贈者(贈与を受ける人):贈与をした人の直系卑属(子や孫など)である推定相続人及び孫のうち、贈与を受けた年の1月1日において20歳以上である者。(令和4年4月1日以降は18歳以上になります)

贈与財産の種類・価額・贈与回数は問いません。

適用手続の仕方は、次のとおりです。

受贈者は贈与を受けた財産にかかる贈与税の申告書の提出期限までに、

A. 相続時精算課税選択届出書
B. 贈与税の申告書
C. 一定の書類(受贈者の戸籍謄本または抄本などで、氏名・生年月日・贈与者との続柄を確認します。受贈者の附票の写しなどで、住所または居所を確認します。贈与者の住民票の写しなどで、贈与者の氏名・生年月日・住所・居所などを確認します。)他、財産の種類によって必要となる書類があります。

を、納税地の所轄税務署長に提出します。一度提出した相続時精算課税選択届出書は撤回できません。また、提出期限までに提出しなかった場合には、相続時精算課税の適用を受けることができませんので、注意してください。

○課税関係については、次のとおりです。

贈与税:贈与財産の価額から控除する金額、つまり非課税になるのは2500万円です。
2500万円を超えた部分に対して、一律20%の税率で贈与税を計算し、納税します。

(例)3500万円の不動産の場合の贈与税
(3500-2500)×20%=20万円
↓ 相続発生
相続税:贈与者が亡くなった時に、相続時精算課税を適用した贈与財産の価額3500万円(贈与時の価額)を加算して相続税額を計算します。この時、既に支払った贈与税相当額20万円を相続税額から控除します。なお、控除しきれない場合は、還付を受けることができます。

○メリットとデメリットは、次のとおりです。

相続時精算課税制度のメリットは次の3つです。

①2500万円を超えても贈与税が安くなることがある

暦年課税制度は「110万円まで非課税、その後は贈与額に応じて累進課税」という仕組みです。「2500万円まで非課税、それ以上だと贈与税が一律20%で課税」という相続時精算課税制度のしくみを使うと、贈与税を節税できます。
1億円の財産の贈与で考えてみましょう。それぞれの制度での贈与税額は次のようになります。

暦年課税制度:(1億円-110万円)×55%-400万円=5039万5000円
相続時精算課税制度:(1億円-2500万円)×20%=1500万円

つまり、相続時精算課税制度の方が3500万円以上贈与税を抑えられるわけです。

②値上がりが確実な財産だと相続税の節税になる

相続時精算課税制度で贈与した財産は相続財産に持ち戻します。このときの持ち戻す金額は贈与時の時価です。贈与時よりも相続時に時価が高くなるのが確実な財産であれば、「相続時の時価-贈与時の時価」の差額分だけ相続税を節税できます。

③収益性のある財産ならば収益の分だけ節税できる

賃貸アパートや有価証券など、収益性の高い財産でこの制度を利用すれば、将来発生する家賃や配当・分配金の蓄積分も早めに相手に承継することになり、相続税を低く抑えることにつながります。

相続時精算課税制度のデメリットは次の7つです。

①110万円以下の贈与でも贈与税の申告が必要

相続時精算課税制度は暦年課税制度とは別の課税制度です。そのため「年間110万円以下の贈与だったら贈与税の申告は不要」という規定はありません。つまり、贈与額が50万円でも翌年3月15日までに贈与税の確定申告をしなくてはならないのです。
ただし、扶養している子や孫への生活費や教育費で常識の範囲内だとみられるものは非課税資産に該当するため、相続時精算課税制度の適用があっても贈与税の申告は不要です。

②この制度を使うと暦年課税制度は使えない

選択届出書を一度提出すると、適用を受ける贈与者・受贈者の間では二度と暦年課税制度の適用は受けられません。たとえば、贈与者を70歳の祖父、受贈者を21歳の孫とした上で選択届出書を提出するとその間柄での財産のやり取りはすべて相続時精算課税制度の対象です。

③贈与税の申告書の提出漏れで20%課税に

「贈与額2500万円まで非課税」というのは「期限内に贈与税の申告書を提出すること」が条件です。10万円の贈与があったにもかかわらず「110万円以下だから問題ない」とうっかり勘違いしたり忘れたりして贈与税の申告書を期限内に提出しなければ、   10万円×20% =2万円の贈与税を納めることになります。

④贈与を忘れると遺産分割協議と相続税申告をやり直す必要がある

相続時精算課税制度の贈与でありがちなのは「うっかり忘れ」です。選択届出書を提出した後の贈与はたとえ10年前のものでも相続税の課税対象となります。対象となる贈与を忘れて相続税の申告をすると、後日、税務署から指摘され、遺産分割協議や相続税の申告をやり直すことになるのです。

⑤相続人でない孫は2割加算で相続税を納める

相続時精算課税制度で相続人でない孫が財産をもらうと、後日相続税の申告・納税義務が生じます。代襲相続人である孫ならば相続税だけですみますが、そうでない孫は「相続税+相続税×20%」を納めなくてはなりません。

⑥不動産だと小規模宅地等が使えない上、別の税金がかかる

贈与額2500万円まで贈与税がかからない相続時精算課税制度でもっとも利用が検討されるのは、金額の大きい不動産ではないかと思います。一見得に見えますが、自宅や事業用物件を贈与してしまうと相続税の節税で使える小規模宅地等の特例が使えなくなってしまいます。さらに、相続ならばかからない不動産取得税や登録免許税もかかります。活用するなら事前のシミュレーションが必要です。

⑦相続税の物納には使えない

続税は原則一括納付ですが、どうしても払えないときは延納や物納といった方法での納税ができます。しかし、相続時精算課税制度で贈与された財産は物納に用いることはできません。
お考えの際は、専門家に相談しましょう・・・